超高精度ネックスキャニング&リペアマシン「PLEK(プレック)」

ギターの歴史、それは常にネックの問題との戦いの歴史だ。

ネック自体の順反り・逆反り・捻れ、指板の波打ち、フレットの減り・仕上げ、トラスロッド調整など…

ネックとはその名の通り、常にギターの不調のボトルネックになっている存在だ。

木材が生まれ持った個性が、いつ出てくるのかは誰にもわからない。だからこそギターメーカー各社は徹底したシーズニングを行い、それだけでなく、真空状態で木材を焼き上げるロースト加工」や、湖の底に100年以上も眠らせた木材タイムレスティンバー」など、あらゆる工夫を惜しまないのだ。

 

また、ネック自体が健全な状態だとしてもプレイヤー達の要求はそれにとどまらず「もっと弦高を下げたい」、「フレットを尖らせろ・平らにしろ」、「指板をなるべく削らずにフレットの擦り合わせをしろ」など、リペアマンの悩みは尽きない。

 

しかし、そんなプレイヤー達の無茶な要求がリペアマンの腕を磨かせてきたのも事実だ。

 

今では伝説となったプレイヤー・アーティスト達の要求に応えるべく磨かれた技術が受け継がれ、今日の偉大なリペアマン達を育て上げたのだ。

その偉大なリペアマンの一人、Joe Glaserはすでに名高いリペアマンであるにも関わらず、このPLEKに多額の投資をした。この事実自体が、PLEKがいかにリペア業界の革命になり得るものなのかを物語っている。

 

ネックのリリーフと調整「PLEK SCAN」とそれを元にした調整

 

PLEKは、弦を張った状態で、楽器に起きている全ての事象をデータ化するため、それらの条件に対するベストな擦り合わせを行いますので、例えば、ネックに癖が出ていたりする場合や、変則チューニングでも、一切の問題なく、最適な状態を創出することが可能になっています。

まっすぐなネックに対して、フレットの頂点で直線を出すという調整をすることは機械ですから決して難しくありませんが、バズ(ビビリ)の量は、ネックのリリーフ(反り)によって決定される為、表面的に完全な状態ではあっても、バズの回避という点では、依然として楽器、ならびに弾き手にとっては不完全なものとなります。

その為、PLEKでは、それぞれの弦ごとに最適なクリアランスを検出し、実際にそれぞれのフレットの高さを微妙に変化させつつ調整していきますが、これは人の手で行おうとすると気の遠くなる、膨大な時間と労力が必要でしょう。

Sleek Elite

 

弦を張った状態、つまり実際にプレイする際と同じ状態で計測するPLEK SCANを元にし、全てのフレットをバラバラに調整する。これはもやは人間には到底できない作業であるのが明白だ。

ヴィンテージギターのオーナーならば必ずと言っていいほど経験する、フレット擦り合わせおよび打ち替えの際の好ましくない音色の変化。これはヴィンテージギターとその音に魅せられている者にとっては死活問題だ。このような極力指板やフレットを削りたくないが、調整しないことにはバズ(ビビり)やチューニングの不安定さに目を瞑れない状況の場合特に効果を発揮するだろう。

 

カルテの如く連続するデータが調整の鍵を握る

PLEKをすでに導入しているリペアスタジオでは、少々高価(と言っても1万円から2万円程度)なPLEKによる調整を行わず、スキャンだけを行う顧客が増えているそうだ。

その理由としては、医療機関でいうカルテの如く、精密な診断記録をメンテナンスごとにとっておく事で、そのネックが持つ癖を把握し、調整の際に活かすことができるからだ。

何が原因で弾きづらいのか、より正確なチューニングにするにはどこでバランスを取るのが好ましいのかなど、把握しづらい問題点を、熟練のリペアマンのようにその楽器と対話するかの如く理解できるのだ。

これはギター工房「弦」でも行われているサービスで、同工房が顧客から確かな信頼を獲得していることが診断記録の連続性の重要さを表す何よりの証拠となっている。

 

現時点でのPLEKの立ち位置

現在PLEKが導入されているリペアスタジオとそうでない所とで、ネック調整の仕上がりに歴然とした差があるわけではない。(もちろんヴィンテージギターなど特殊な理由で手を加える箇所を最小限にしたいケースを除くが)

というのも、長年経験を積んできた職人達は木材と容易に対話し、季節ごとの発現される楽器ごとの特性や癖などをすでに十分に上手くいなしているのだ。これは一朝一夕にできる技ではないが、日本には優秀なルシアーやリペアマンが数多くいる為、その作業が余所で機械化された程度では工房の評価や存続などには影響してこない。

それどころか優秀なリペアマンはそこに通うプレイヤー一人一人が、どのようなセットアップどのような出音を期待しているのかを把握している為、機械にはできないオーダーメイドなアプローチが可能なのだ。

 

PLEK、その効果を最大限に発揮するには

PLEKのメリットの一つとして、使用者の熟練度による仕上がりの差がないことが挙げられる。

しかしこれは、PLEKによる計算上最も良いセットアップに統一されることに他ならず、プレイヤーが求める全て(出音も含む)が叶っているわけではない。

つまりPLEK(プレック)がその能力を最大限発揮し、プレイヤーに対して最高のギアとなるのは、熟練のリペアマンがPLEKを使用した時なのだ。

これはPLEKの特性を考えると非常に贅沢なことだが、最高のプレーを求めるならば贅沢はつきもので、CNCルーターで大量生産したギターよろしく、ある程度の作業を機械化した所で未だに最終工程には人間の手が必要なのだ。

しかし他の角度から見てみればこれは、機械的に行うべき作業もしくは人間には不可能な作業を機械が代理で行うことで、熟練した人間が行う作業にさらなる正確さや素早さをプラスすることができるということなのだ。

 

CNCルーターのように普及するのか、今後のギターリペアの進歩はいかに。

今後PLEKがCNCルーターのように多くの工房に普及していった場合、PLEKによって計測したデータが工房同士でやりとりできるようになり、気に入っているギターのネックグリップをオーダーで再現する際にネックを何ヶ月も預けるようなことはなくなるだろう。そして、調整と木工・塗装などを都内と郊外の拠点で分けて行なっている工房なども、よりスムーズな顧客とのコミュニケーションが可能になるだろう。

ヴィンテージギターの価格は年々高騰し、塗装はラッカーではなくなり、ローズウッドなど今まで当たり前のように使用されていた木材は新たな条約の影響で希少なものとして扱われ始め、ギターの黄金期とは随分とかけ離れた時代になった。

しかし、その分CNCルーターの普及、薄く丈夫な塗装技術、マルチスケールフレッティング、パワフルなアクティブサーキット、果ては自動チューニング機能やシンセサイザー内蔵ギターなど、確かな進歩を遂げているのだ。

我々は古き良き時代を羨む必要はない。

なぜならその時代の人々が憧れてやまない最新技術の恩恵を、存分に享受することが出来るのだから。

Ram's Head
DEEP DIVER編集部の中で最も機材愛が深い男。作曲や編曲などの仕事もしているらしいが本人曰く“新しい機材を使いたいだけ”とのこと。大の犬好きで、猫アレルギー。好きな音楽のジャンルは特にないが、好きなトランスは“Marine Air”だそうだ。編集部にはまだこの男と話が合う者はいない。