「そういえば楽器屋さんでアーティストを見かけた事ないなー。」

そう感じたことはありませんか?
今やYouTubeなどの動画配信サイトで活動し広告収入を得ることが個人でも十分可能で、プロのアーティストは決して一握りの存在ではない時代なのに、楽器屋さんではなかなか見かけない。これにはちゃんと訳があるのです。今回はそんなアーティストの方々がどのようにして機材を購入しているのかを詳しくご紹介したいと思います。

アーティストの機材購入には様々なパターンが存在する

今回お話するのは、絶大な人気を誇るアリーナクラスのバンドとかの話ではありません。そのクラスのアーティストは関係者を介して機材を入手したり、楽器屋などとのやりとりもマネージャーやローディーに代行させるのが一般的ですのでむしろそのクラスではなく、武道館クラスまでのアーティスト。これはなんだか失礼な言い回しのように聞こえるかもしれませんが、とんでもありません。個人的には邦楽のバンドサウンドはあまりアリーナ向きではないと感じますし、日本では武道館までが“ライブ”であってその先は別のエンターテイメントだと思っていますので、何十年も毎年武道館ライブをできるバンドが一番だと思っています。

話がそれましたが、そのクラスのアーティストはどこで機材を売り買いしているのか?実はなんということはなく普通の楽器屋さんなんです。
ただ、“プロ用のセクション”です。
正式に事業部として用意されているものと、お得意様対応(VIP)として特例的に対応される場合とがありますが、前者で言えば宮地プロフェッショナル事業部やROCK ON PROなどが最大手です。

※本記事の内容は全て“状況次第・特例・特別対応”に該当する可能性があり、いわばVIP待遇に当たるものですので特定の楽器店でそのようなサービスが行われていることを断定するものではありません。また、以下で紹介するサービスは、宮地プロフェッショナル事業部ROCK ON PROが行なっているサービスを指すものではありません。

プロ向けのセクションで受けられるサービス

これはあまり知られていないことなのですが、大手楽器屋さんにはプロミュージシャン対応用の部署が存在します。そこではどのようなサービスが受けられるのか、自分が知っている限りにはなりますが、ご紹介しようと思います。

  • 営業時間外の対応
  • 商品の割引
  • 特殊なオーダー
  • 指定の場所までの搬入出・セッティング
  • システムのトータルプランニング
  • 機材のモニター貸与

その他にも細かいサービスがたくさんありますが、一般との大きな違いはこの辺かと。

まず営業時間外の対応ですが、著名なアーティストはこのサービスがないとまともに買い物ができません。ファンに話しかけられたり写真を取られていたりしては、集中して機材を選ぶ事ができません。またアーティストには極めて多忙な時期がありその立て込んだ時期になんらかの機材トラブルがあれば営業時間外に対応してもらう他ありません。

商品の割引に関しては、これはアーティストだからプロだからとかそう言う話ではありません。単純に“常連さんだから”と言うことになります。優良顧客と言うのはどんな業種・業態であれ大切にしなければならないので、高額な商品を定期的に購入するお客さんにサービスしているだけです。基準としては体感ですが概ね年間100万円程度同じ楽器屋さんで買い物をするとこれに該当してくるかと思います。

次に特殊なオーダー。これは中でも特殊なケースになりますが、系列店全体・店舗・担当者の全てと良好な関係が築けると、あまり採算の合わないオーダーやコネクションが必要な手間のかかるオーダーを受けてくれるようになります。ギターなど楽器本体をメーカーにオーダーする際の話ではなく、アウトボードのカスタムやエフェクターのモディファイなどがこれに当たります。

指定した場所までの搬入出・セッティング。これはコンソールなどを買った際に設置する場所まで運び、設置しセッティングをしてくれるサービスです。モニタースピーカーなんかを買った際にもセッティングを手伝ってくれたりします。

そしてシステムのトータルプランニング。音響システムには多種多様な選択肢と相性があり、最良のシステム構築をするには膨大なリソースが必要です。その膨大なリソースを持つ楽器屋さんの圧倒的な知識と経験で、ミュージシャンの要望に合わせてプランニングしてくれるサービスです。サウンドのセッティングよりも楽曲の制作に時間を費やしたい作曲家の方などの為のサービスです。

最後に機材のモニター貸与です。タイミング次第にはなりますが、ギターシールドやエフェクターからモニタースピーカー、コンソール、ギター本体など様々なものを借りる事ができます。アーティストは実際に使用する環境でのフィーリングを正確に見極めてから安心して購入でき、店側は商品の魅力を最大限にアピールできる方法なので、双方の信用の上に成り立った最も合理的な販売方法です。実際、モニター品を返却せずにそのまま購入してしまうアーティストは少なくありません。

このようなサービスの他に、顧客ごとに担当者が決められ問い合わせなどがスムーズに行えたり、別の店舗に置いてある商品を持ってきてもらえたりなど、購入や売却をスムーズに行うためのあらゆるサービスが付帯します。

どのようにしてそれらのサービスを受けるのか

楽器店の担当者がわかる程度に有名になれば自然とプロ用のセクションで対応を受ける流れになります。しかし音楽業界には作曲家やアレンジャー、プロデューサーなど様々な裏方のプロフェッショナルが存在し、その手の音楽家は地名度最小限にしている為一見一般のお客さんと区別がつきませんが、そこは楽器店もプロ。購入に際しての相談や世間話などから、プロかアマチュアかを見極めます。また、購入する楽器の機種や金額などでも判定します。
つまり実際にプロであるかどうかを判定する基準などなく、どこからどこまでがプロと決まっているわけではないので、“プロレベル”のお客さんを判定してそれ相応の対応をすると言う、極めて自然な構造なのです。

条件がそろえば誰でも受けられるサービス

当然のごとくこの“プロレベル”のお客さんは年間何百万円分もの商品を購入し売却します。
そのような優良顧客には、ある程度その顧客が求めるサービスを提供するのが必然です。その“ある程度”に関しては楽器店や担当者などにより千差万別ですが、ここにシステマチックな要素はほとんどなく、積み上げた信用と現場の裁量がほとんどです。
つまり、楽器屋さんにある程度の金額を落とす方であればどなたでもその可能性はありますし、前述のサービスを受けた覚えがある方は、もしかしたらすでにお得意様対応を受けているのかもしれません。

Ram's Head
DEEP DIVER編集部の中で最も機材愛が深い男。作曲や編曲などの仕事もしているらしいが本人曰く“新しい機材を使いたいだけ”とのこと。大の犬好きで、猫アレルギー。好きな音楽のジャンルは特にないが、好きなトランスは“Marine Air”だそうだ。編集部にはまだこの男と話が合う者はいない。